アラサー女性の日常を描いた、斬新なブラックコメディドラマ『Fleabag フリーバッグ』がシュールで面白い
Amazonプライムで独占配信されているイギリスのドラマ『Fleabag』を観ました。
これが、期待以上に面白かった。何なのコレ?と言いたくなるくらい“変な”ドラマ。しかし、なんだかズンズンと観る者の心に踏み込んでくるような気がして。
一話30分×6話×全2シーズンと、海外ドラマでは比較的短いので、一気に観てしまいました。
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『Fleabag フリーバッグ』(2016~2019英)全2シーズン
主人公“フリーバッグ”(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)は、何をやっても上手くいかないアラサー独身女性。性欲強め、盗み癖あり。
口を開けば皮肉か冗談か下ネタが出てくる彼女は、周りから疎まれることもしばしば。
親友ブーと開いた“モルモットカフェ”は全く流行らず、金銭的にも余裕がない。銀行には融資を断られる。彼氏には愛想を尽かされ失恋するが、性欲だけは人一倍で体を求めてくれる相手を欲している。
仲の良い姉のクレアは、フリーバッグとは正反対。バリバリのキャリアウーマンで高給取り、既婚で美人、真面目なしっかり者。
母親を乳がんで亡くし、父親は芸術家でくせ者の女性“ゴッドマザー”と再婚しようとしている。
そんなフリーバッグと彼女の周囲が繰り広げる、とことんシュール、だけどどこかシリアスで深いドラマです。
フリーバッグはおしゃべりで、姉のクレアに「皮肉と冗談は言わないで」と何度も釘を刺されるくらい。下ネタも炸裂、日本のドラマではなかなか放送できないであろうお下品さやタブーも満載です。でも、なぜか憎めない。
最初は変人かと思ったくらいのフリーバッグですが、徐々にフリーバッグに親しみがわいてくるんですよね。
おしゃべりなのも、皮肉や冗談を言うのも、体を求めてくれる誰かを欲するのも、
フリーバッグが虚勢を張って取り繕うのに必死で、素顔の自分を隠して生きているからなんだろうな、と思えてきて。
周りから疎ましがられるほどの彼女の言動は、本当は弱くて傷ついているフリーバッグの、鎧でしかないのだろうな。
だから、本心を突かれるようなことをふいに言われると、戸惑いを隠せず急に鎧がはがれて、不安に駆られてしまうのだろうと。
そのフリーバッグの内面は、シーズン2の司祭という禁断の相手との恋愛を通して描かれているように思います。
このドラマのユニークな特徴として見過ごせないのが、何と言っても、フリーバッグが視聴者に語りかけるという演出。
突然カメラ目線になり心の声を私たちに語りかけるこの演出によって、フリーバッグと距離が近くなったように感じるのです。
そんな、フリーバッグの心の声は、フリーバッグの目の前にいる相手は気づきません。しかし、フリーバッグが本気で好きになる司祭だけが、そんなフリーバッグに気付くのも意味深なところです。
もう一つ、面白いと思ったポイント。
主人公は、ドラマを通して名乗ることがないのです。誰かに名前を呼ばれることもありません。
クレジットやドラマの紹介文などでは“フリーバッグ”となっていますが、fleabagとは「不潔な人」「不愉快で汚い人」を意味する俗語。主人公の本名ではもちろんないはずです。
名前を呼ばれることも名乗ることもない、“名前のない”主人公フリーバッグ。この名前と設定からも、制作者の深い意図がありそうで気になるところ。
フリーバッグの周りを固める人たちも、個性的で変な人揃いでドラマをより面白くしてくれる存在ばかりなのですが、私が一番好きなのは姉のクレアです。
シーズン2で髪を切って失敗して「鉛筆みたい」と泣くシーンは笑いました。
フリーバッグだけではなく、クレアも前を見て進んでいく。変わっていく様子が描かれていて良かったです。
ちょっとクセが強すぎる、シュールでシリアスでダークでシニカルな、それでいてぐっと観る者の心を突き刺し感情を揺さぶるような、とっても個性的なこのドラマ。
特に、同世代の女性は共感するところも多いのではないでしょうか。おすすめです。
YouTubeにフィービー・ウォーラー=ブリッジのインタビューがメインのメイキングムービーがありました。
フリーバッグ役のフィービーはこのドラマの脚本も手掛けていて、今女優・脚本家として引っ張りだこなのだそうですよ。