元・ふわふわ北京日和

北京住み→日本に本帰国。現在は中国に関係あったりなかったりの気ままなブログ。

暗い歴史を引きずる南アフリカで交差する思い。凄惨なクライムサスペンス『ケープタウン』

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ケープタウン(2014年仏・南アフリカ

原題『Zulu』

監督:ジェロール・サム

出演:オーランド・ブルームフォレスト・ウィテカーほか

 

ケープタウンはご存じ南アフリカの都市名ですが、原題は「Zulu」。南アフリカの民族ズールー族のことです。

映画のジャンルとしてはサスペンス、クライム、刑事モノ、どれも当てはまりそうですが、何よりもアパルトヘイト時代に起因する、今でも消えない深刻な問題を描いた社会派映画だと思いました。

ホラーではないのに、なぜだろう、すごく怖かった。「なぜ?もうやめて」と言いたくなってしまうくらい。観ていて苦しくて辛かった。けれど、目をそらしてはいけない問題が確かに南アフリカには存在しているのだろうと。南アフリカの問題を世界に伝えたいという強い意図が制作陣にあったのだろうなと、ひしひしと感じました。

 

ケープタウンで、元ラグビー選手の娘の死体が見つかる。殺人事件として捜査にあたるズールー族の警部アリ(フォレスト・ウィテカー)と刑事ブライアン(オーランド・ブルーム)。捜査を進めていくと、被害者は謎の薬物の売人と接触していたことがわかる。さらに、街から少年が次々と消える事件が起こり、そこにもその薬物が関与していた。一連の事件の背景には、根深く恐ろしい陰謀が渦巻いていた。

 

アリ警部は黒人、ズールー族。幼い頃に父親を目の前で殺されたり、自身も白人警官によって暴行されたりと、アパルトヘイトによって傷を負った過去を持っています。

アリ自身はいつも冷静で、感情を表に出さない真面目な人物として描かれています。

アリとタッグを組む白人のブライアン刑事は、女グセが悪く酒好きでだらしないが、刑事としては有能。父親が極端なアパルトヘイト推進派だった反動で非差別主義者という設定です。

静かなアリと破天荒なブライアン。しかし、アリにとって大切な人を殺され、アリは復讐を決意する。それがもう、凄惨で、やりきれなくて。壮絶でした。

正義とは、悪とは何だろう。正しい行いとは。復讐は、赦しとは。

ひたすらに重くて、ダークで、やり場のない悲しみと怒りがつきまとう映画。ただ、あのラストは、私はこれで納得です。少しだけでも、光が見えたような気がしたので。

 

この国が背負っている暗い歴史。私は詳しくは書けませんが、政策が変わり、時が流れても、負の遺産として根強く残っているものが、まだ多くの人々を苦しめ続けているのだろうと思います。

 

そして、もう一つこの映画が怖いと思った点は、人命が軽視されているようなこの街の描写。

わりと序盤で海岸で警察と犯罪組織の一味が対決するシーンがあるのですが、そこから怖くなりました。

警察を警察とも思わず、容赦なく危害を加える者たち。アリとブライアンの仲の良い同僚であったダンが、むごい殺され方で殉職します。

さらに、黒人の子どもたちを使って薬物の人体実験を行ったり…言葉を失います。

その後も殺人、拷問、打ち合いなど凄惨なシーンが何度も出てきます。眼をそむけたくなるような描写も少なくないです。

そして、街の描写から感じ取るケープタウンの風景はやはり、殺伐としていました。もちろん、映画のために意図的にそういうカットを切り取っているのだとは思うし、現地に住んでいる日本人の方もいるわけだし、一概に危険だ、治安が悪いとは言えないのだとは思うのですけどね。行ってみなければ分からないことだってたくさんあると思います。

ただ、治安の悪さと言っても、いつどこで殺されるか分からないという恐怖、そして警察をものともしない犯罪者たち。やっぱりちょっと、怖いなぁ…と。

 

…と、映画としては怖いし、もう一度観たいとは全く思わないけれど、この映画にかける人々の思いと深いテーマに魅了されたので、個人的にはかなりの高評価です。観て良かった。

 

また、知らない国だからこそ、こうやって映画などエンターテインメントを通じて、たとえフィクションでもその国のことを知ることができるのは、やはり嬉しいことだと思います。

もっと他国のこと、世界で何が起きてきて、現在何が起こっているのかを知りたい。

 

アリを演じるフォレスト・ウィテカーの演技は凄まじかったです。そして、これまできれいどころのおぼっちゃんのようなイメージだったオーランド・ブルームが、かなりワイルドな刑事をうまく演じているのにはびっくりでした。こういう役もできるのね。

 

YouTubeに予告編がありました。

www.youtube.com