元・ふわふわ北京日和

北京住み→日本に本帰国。現在は中国に関係あったりなかったりの気ままなブログ。

中国では公開が危ぶまれた、ロウ・イエ監督のバイオレンスなサスペンス映画『風中有朶雨做的雲』

今年4月の中国公開時から観たいと思っていた、婁燁(ロウ・イエ)監督の『風中有朶雨做的雲』をネットで観ました。日本未公開。

これがロウ・イエ作品か。他の中国映画よりもずっと、おどろおどろしくて、闇を描いている気がしました。 

 

『風中有朶雨做的雲』(2016年中国)

監督:婁燁(ロウ・イエ

出演:井柏然(ジン・ボーラン)、宋佳(ソン・ジァー)、馬思純(マー・スーチュン)、陳妍希(ミシェル・チェン)ほか

baike.baidu.com

予告編はこちら(中国語)

www.youtube.com

 

中国南方(おそらく広州)沿岸都市。開発区主任の唐奕傑(タン・イージエ、張頌文)が、立ち退きに反対する市民にスピーチをした後、ビルの屋上から突き落とされ死亡した。事件を担当する若手刑事、楊家棟(ヤン・ジァードン、井柏然)は捜査を進めるうちに、数年前の台湾女性連阿雲(リエン・アーユン、陳妍希)失踪事件とつながりがあることを知る。唐奕傑の妻である林慧(リン・フイ、宋佳)、娘の小諾(シャオヌオ、馬思純)、林慧の昔の恋人で不動産王の姜紫成(ジァン・ズーチェン、秦昊)らが絡み合い、汚職と殺人の闇が潜んでいた。罠にはめられた楊家棟は職を失いながらも、独自に捜査を重ね真相を追い求める。

 

広州、香港、台湾それぞれの地点を行き来し物語が進みます。

 

ロウ・イエ監督は、中国映画好きならその名を知っているであろう著名な監督です。代表作は『ブラインド・マッサージ』など。

中国では政府による映画の検閲が厳しく、過激な描写(暴力や性的など)や政府に都合の悪い内容を含む映画は上映されません。ドラマも然り。

ロウ・イエは、『天安門、恋人たち』(原題:『頤和園』。邦題変!)で政府からなんと5年間の撮影禁止令を食らったことのある経歴の持ち主。『天安門、恋人たち』は、今でも中国では観ることができません。

その後の作品も、妥協せず独自の世界を貫き、『天安門、恋人たち』含め6本の映画が中国国内で発禁処分を受け観られないという…。良い意味で“懲りない”監督、私は応援したいです(笑)。

そしてこの『風中有朶雨做的雲』。2016年制作で、2019年になってようやく中国公開。かと思ったら直前で上映中止が取りざたされましたが、政府の指示により5分程度シーンを削って公開できた、ということだそうです。

 

中国の他の作品ではなかなか見られないような、バイオレンスな描写がちらほら。そして、実際に起きた汚職事件を題材にしているというところもなかなか政府からするときわどかったのかもしれません。

日本語記事で参考になりそうなものを見つけました↓。

enjoychina.blog.jp

 

真相に向かうハラハラドキドキ感もさることながら、どちらかというと、ダークでドロドロした人間模様をえぐり出す、どこか物悲しくて切なくもある映画でした。

どこかで歯車が狂ってしまった人たち。鑑賞後の後味は、良くはないです。でも、どこかに救いは感じられる気がしました。

俳優たちも実力派揃いで良かった。井柏然はきれいすぎずどこか男臭さを感じさせるところが気に入っています。私お気に入りの女優、馬思純もしっかり存在感を出していました。

 

さて、鑑賞後、自分の中でちょっと理解が追い付いていない部分もあったので、ネットで解説記事を探していたところ、良いもの発見。

この解説動画↓、すごく詳しくて役立ちました!もちろん思いきりネタバレです。

中国語ですが、映画と合わせて見てみるとより理解が深まります。

このYouTubeチャンネル良いですね。『ラストエンペラー』の解説もあって見入っちゃいました。

www.youtube.com

この解説動画で知ったのですが、わいせつ事件で芸能活動を停止していた香港俳優のエディソン・チャンが、楊家棟に力を貸す探偵の老A役で出演していることでも話題だったそう。

しかし、エディソン・チャンの出演シーンは、顔が映らないように加工されています。ロウ・イエ監督はこの加工は不本意だったそうですが、どこからか圧力がかかったのか…。

 

大衆向けの作品ではなく、本当に自分が撮りたいものだけを、いくら処分を受けようとも撮り続けるロウ・イエ監督。次の作品も楽しみです。