元・ふわふわ北京日和

北京住み→日本に本帰国。現在は中国に関係あったりなかったりの気ままなブログ。

一人っ子政策の闇に中国人監督が切り込んだ、迫真のドキュメンタリー映画『一人っ子の国』

Amazonプライムで配信が始まったドキュメンタリー映画、『一人っ子の国』を観ました。

タイトル通り、中国の一人っ子政策がテーマ。私と生まれ年が同じで、現在はアメリカに移住している中国人女性監督が一人で中国各地を取材し、一人っ子政策の闇に切り込んだ内容となっています。

中国に住んだことがあり、一人っ子政策による社会問題を多少なりとも把握していると思っていた私にとっても、衝撃的でショッキングなものでした。と同時に、隣国でつい最近までこのような政策が行われていたことの実態を、多くの人に観てもらいたい。観る価値のある作品だと思います。

本編開始の際に注意書きがありますが、内容としても、ヴィジュアル的にも、ショッキングな内容が含まれます。眼をそむけたくなるシーンもありますが、私は目が釘付けになり最後まで観ていました。

 

 

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『一人っ子の国』(2019年米)

原題:One Child Nation

監督:ナンフー・ワン、ジアリン・チャン

Amazon.co.jp: 一人っ子の国 (字幕版) (原題 - One Child Nation)を観る | Prime Video

 

(以下、一部ネタバレあり)

 

監督のナンフー・ワン氏は、1985年、一人っ子政策の真っ只中に中国の田舎で生まれました。中国語名は「王男栿」。女性なのに、「男」の字が付けられたその名前の由来は、「男の子の大黒柱を望む」という親の思いが込められていました。そう、彼女は、一人っ子政策下において、男の子を切望する家庭に生を受けたのです。

中国では確かに、女性なのに名前に「男」の文字がついている人がときどきいます。私はその名前を見るたびに、女性なのになぜ?と不思議でなりませんでした。それが、ワン監督の言葉で分かりました。男の子が欲しかったという想いを、生まれてきた女の子に付けていたとは。実際に「男」の字を持つ中国人女性から話を聞いたことはありませんが、彼女たちは自分が「望まれて生まれてきたわけではない」「生まれてきて親ががっかりした」と知って、どう感じているのだろうと、複雑な気持ちになります。

 

ワン監督は、自身も母親になったばかりで、生まれて間もない子どもを連れて、中国に里帰り。そして、カメラを持ち、関係者に話を聞いて回ります。自分の母親をはじめ、親戚、村の役人、自分を取り上げた助産婦さん、人身売買ビジネスに手を染め服役した元売人、アメリカで中国の失踪児童を追う夫婦、香港に逃亡した元記者、ジャーナリスティックな作品を手掛ける芸術家…。

これは、メディアが取材をした映像とは違う。一人っ子政策の下に産まれてきたワン監督が、自分の生い立ちを追いながら、一人っ子政策とは何だったのかを暴いていく、彼女自身を探す記録でもあります。

 

ワン監督の故郷は田舎で、一人っ子政策下においてもお金を払って5年経てば二人目を産むことが許されたそう。ワン監督の親は、次も女の子だったらよそにやっていた、というようなことを言います。産まれてきたのは男の子でした。

ワン監督の弟も、映画の中に出てきます。

 

一人っ子政策下では、男の子を望むあまりに産まれてきた女の子をよそにやったり売ったり捨てたり、戸籍無しで隠れて育てたり、という問題が多く発生しました。

ワン監督を取り上げたという助産婦さんの証言が重かったです。この助産婦さんは今は80代で、命が生まれるのを手伝う仕事をしているのに、同時に多くの中絶を執行させられた。ただ、この助産婦さんはずっと罪の意識を抱いていた。

一人っ子政策が終わった今、この助産婦さんは、中絶を手伝うのはもう一切やめて、不妊治療の相談に乗っています。せめてもの罪滅ぼしを、と。

 

そういう罪の意識を抱く人がいる一方で、ある計画出産委員の女性は、大勢に中絶手術を施した実績(という言葉は不適切だろうけれど)を国から称えられ、数々の表彰を受けました。それを誇りに思っていて、今も笑顔で自慢げにそのことを語ります。

 

何よりも恐ろしいのは、ワン監督が話を聞いた人たちが口を揃えて言う「当時は苦しかった」「政策が厳しかった」「仕方なかった」「従うしかなかった」という言葉。徹底的に一人っ子政策が良いことだと洗脳され、そこらじゅうに一人っ子を称えるプロパガンダが溢れかえり、子どもの命がどれだけ粗末にされようとも、それは仕方のないことだと皆が考えることを停止している状態であったことではないかと、思います。

 

子どもを売ることを村や町ぐるみで行っていた、数々の自治体の名前も告発されます。中国で捨てられた子どもや誘拐された子どもを外国に売り養子に出すという人身売買が、国ぐるみで行われていたことが明らかにされ、戦慄が走ります。

 

そして現在。あれだけ一人っ子政策を称えていた国が、今は手のひらを返したように「二人っ子」を推奨している。子どもが二人いれば素晴らしい、と、一人っ子政策下のプロパガンダとまるで同じやり方で。

一人っ子政策で苦しんだ人たち、運命を変えられた人たちは、今の二人っ子を推奨する国に対してどう思っているのでしょうか。それでも、「国が決めることだから仕方ない」と、思えるのか。

 

ワン監督は言います。自分も26で国を出るまで何も知らなかった。自分はどれだけ無知だったのか、と。海外に出る中国人がどんどん増える中で、国内にいては知りえないであろう真実に目を向ける人も増えてくるのではないでしょうか。そして、この映画は、アジアの大国でつい最近までこのような悲劇が起きていたことを、多くの人が知るきっかけになったと思います。

下手すれば拘束される可能性すらあったかもしれないのに、危険を感じながらも取材を敢行し、本作を完成させたワン監督とスタッフの皆さんに敬意を表したいです。

 

ワン監督の言葉。一人っ子政策の国を出て、アメリカに来た。皮肉なことに、ここでは中絶が制限されている。やっていることは真逆なようで、どちらも、女性が自分の体を自由にできないという点で同じだと。

プロパガンダは中国に限らず、どの国でも起こり得ることです。国が愚かな政策に突き進んでしまう時、個人がどれだけ自分の頭で考え意思を貫くことができるでしょうか。「仕方なかった」「政策だからやるしかない」と、正当化しないでいられるでしょうか。

 

そして、外国のことを他人事のように思っている日本のこと。

女性の尊厳や自由は守られているのか。女性の体や、子どもを産み育てることに対して、理解のない人は多くいます。そのようなニュースを見るたびに、窮屈さを感じざるを得ません。私は決して、日本は女性が生きやすい国だとはそれほど思えないです。

 

Amazonプライムが観られる方はぜひ。気持ちはかなり落ち込みますが、観る価値のある一作だと思います。