元・ふわふわ北京日和

北京住み→日本に本帰国。現在は中国に関係あったりなかったりの気ままなブログ。

アメリカの格差社会で生きるシングルマザーと娘。映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

映画鑑賞記録。2017年の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を観ました。

なにげなく観てみたけれどすごく良かった。その日暮らしのシングルマザーとその娘を描いており、日本からはなかなか見えてこないアメリカの貧困やホームレスなどの社会問題を、皮肉にも明るく強烈なインパクトで訴える映画でした。

 

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フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(2017年米)

原題:The Florida Project

監督:ショーン・ベイカー

出演:ウィレム・デフォー、ブリア・ヴィネイト、ブルックリン・キンバリー・プリンスほか

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フロリダのディズニーワールド。世界中から観光客が集まるその“夢の国”のすぐそばの安モーテルでは、ホームレスの若いシングルマザーのヘイリー(ブリア・ヴィネイト)と6歳の娘ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)が住み込みその日暮らしをしている。

ヘイリーは定職に就かず、偽物の香水を観光客に押し売りしたり、香水が売れなければ物乞いのように金を恵んでもらったりして暮らしていた。6歳のムーニーはお転婆を通り越したイタズラ好きで、同じモーテルに住む友達のスクーティ、隣のモーテルに住むジャンシーと、毎日面白いことを見つけては笑い転げている。

貧しくも楽しい親子のギリギリの生活。しかしそれは長くは続かず…。

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ヘイリーは恐らく10代でムーニーを産み、シングルマザーになりました。ヘイリー自身が母親とはいえ精神的には子どもで、何しろ素行が悪すぎる。非行少女そのものです。

全身タトゥーだらけ、口が悪い。定職には就かず(職探しをしてもなかなか雇ってもらえない)、犯罪スレスレ(というか完全に違法)のことをして日銭を稼ぐ。ムーニー連れで偽物の香水を高級ブランドと偽って観光客に売りつけたり、香水を買ってもらえなければ「せめて2~3ドルちょうだい」と物乞いのようなことをしたり。宿泊していないのにホテルのレストランに紛れ込み、ムーニーを連れて無銭飲食。食事は同じモーテルに住みダイナーで働く友人のアシュリーから、おこぼれをこっそりタダで分けてもらう毎日。

口を開けばケンカ腰で相手を罵り、教養がないのがすぐに分かります。モーテルの支配人のボビー(ウィレム・デフォー)に逆ギレして、フロントのドアに自分の使用済み生理ナプキンを貼り付けた場面はさすがにドン引きしました(-_-;)

 

そんな母親のもとで育った6歳のムーニー。口は悪いし、イタズラも悪質で周りの大人に迷惑をかけまくります。

アイスクリーム屋に友達と張り込み、アイスを買いに訪れた客に可愛く頼み込んで、1個のアイスを買ってもらい、その1個のアイスを3人で分けて食べるのが楽しみ。

お金はないけれど、毎日友達と外を走り回り、何か面白いことはないかと探しています。イタズラっ子で憎らしいけれど、そんなムーニーの姿には悲壮感はなくて、毎日笑っている女の子。

 

日本人から見ればきっと、ドン引きしてしまうほど素行が悪い母娘。ヘイリーは母親失格だ、共感も同情の余地もない、自業自得だ。そう思う人も多いと思います。私も、ヘイリーは嫌いです(笑)。周りに対するその態度、もうちょっとどうにかしようよ、娘のためにも、と思ってしまいます。が、母親失格か?と言われると、そう簡単に決めつけるのはどうかとも思うのです。

素行が悪く、経済的に困窮し、子どもの教育もしつけもできず、“まともな母親”には到底見えないヘイリー。

しかし、ヘイリーは娘のムーニーが愛しくて仕方なかった。そのことはすごく伝わってきました。

そんなに素行の悪い母親なのに、娘を怒鳴ったり、暴力を振るったり虐待したり、食べ物を与えず餓えさせたり、どこかに置き去りにしたり、そんなことは一度もありませんでした。娘とまるで姉妹か友達のように、娘と同じ目線で遊び、会話をし、笑い転げる。そんなヘイリーのことが、娘のムーニーも大好き。

雨の日は2人で外に出て、土砂降りの中はしゃいだり。稼いだお金でお店に行き、カートに乗って騒いだり。

ホテルで無銭飲食するシーンも(もちろん無銭飲食はダメですが)、アシュリーが働くダイナーで山ほど注文するシーンも、ムーニーにお腹いっぱい食べさせたい、笑顔が見たいという母心のせめてものやり方だったのでしょう。

フロリダの青空の下、すぐそばにはディズニーワールド。そんな環境が強烈な皮肉にもなってしまう、明日の見えない安モーテルで暮らすヘイリーとムーニーの親子。2人の笑顔がとても輝いていると同時に悲しくて、やりきれませんでした。

 

これはアメリカの話ですが、日本でも貧困は社会問題化しています。ネットカフェ難民のように、住まいのない人たちも少なくありませんし、苦しい生活を強いられているシングルマザーだっている。

決して日本も他人事ではないと、他国を見て思います。

 

この映画のタイトルにもなった「フロリダ・プロジェクト」の意味は押さえておきたいところ。

「フロリダ・プロジェクト」とは、ディズニーワールドの開発段階における名称なのだそうです。(フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 - Wikipedia

さらに、「プロジェクト」という単語。日本語にもなっている通り「計画」や「企画」という意味でもありますが、projectには「(低所得者のための)公営団地」の意味もあります。

この皮肉なタイトルからも、監督の込めた思いが感じ取れます。

ちなみに、Amazonの低評価レビューでこのタイトルに関して「この親のどこに計画性があるのか、何のプロジェクトの要素もない」というようなコメントを目にしましたが、タイトルの意味を知らないとそう思ってしまうのですね…(^-^; 

 

監督のインタビュー記事も興味深く読みました↓。

globe.asahi.com

 

本作は、出演者のうち有名俳優がウィレム・デフォーのみというキャスティングもユニークです。ヘイリー役のブリア・ヴィネイトは、監督がインスタグラムで見つけ主役に抜擢されたというから驚き。

子役たちを含めそこで実際に暮らす人をカメラで密着したドキュメンタリーかのように、皆自然な演技でリアリティがありました。

 

自由の国アメリカの底辺で生きる人たち。考えさせられることが多く、観て良かったです。あのラストも忘れられない。