元・ふわふわ北京日和

北京住み→日本に本帰国。現在は中国に関係あったりなかったりの気ままなブログ。

善悪の境界線はどこにあるのか。台湾の社会派ドラマ『悪との距離』が素晴らしかった

話題の台湾ドラマ『悪との距離』をAmazonプライムで観ました。評判通り、とても良かった。社会派ドラマの傑作と言ってもいいと思います。

台湾ドラマはこれまでほとんど観たことがありませんでしたが、真骨頂を見た気がします。これほどに現実社会の問題点をリアルに掘り下げ、それぞれの立場に寄り添い、中立で客観的に描いたドラマは、観たことがないような気がします。

 

Amazonプライムで見放題配信中ですが、出したいサムネイルがうまく出せないので、主題歌のジャケット画像を…。

 

『悪との距離』(2019年台湾)

原題《我們與惡的距離》(『我們与悪的距離』)

出演:賈静雯(アリッサ・チア)、吳慷仁(ウー・カンレン)、陳妤(チェン・ユー)、温昇豪(ウェン・シェンハオ)ほか

 

Amazonプライムの視聴ページはこちら↓ 

Amazon.co.jp: 悪との距離(字幕版)を観る | Prime Video

ドラマ本編は全10話。第11話としてメイキング映像が収められています。メイキングではキャストやスタッフの思いが語られていて、これにも感動しました。

 

予告編はこちら↓

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2年前、とある映画館で無差別殺人事件が起きた。大手報道局の「SBCニュース」副局長・宋喬安(ソン・チャオアン、賈静雯)は、その事件で愛する息子・天彦(ティエンイェン)を失う。息子を亡くしてから、宋喬安は感情を閉ざし一層仕事に打ち込み、他者に厳しい冷酷な上司となっていた。家では酒が手放せなくなり、同業の夫・劉昭国(リウ・ジャオグオ、温昇豪)や娘の天晴(ティエンチン)との関係も悪化していた。

ある日、宋喬安の部下として、新人の李大芝(リー・ダージー、陳妤)が入社し、編成業務を担当することになる。李大芝は本当の身元を隠していたが、実は宋喬安の息子を殺した犯人・李暁明(リー・シャオミン)の妹だった…。

 

映画館で起きた無差別殺人事件。犯人の李暁明は、裁判で死刑が確定しています。

これは事件そのものではなく、事件の後の、それぞれの立場の人々に焦点を当てたお話。それぞれの立場は、

●被害者の遺族

息子を溺愛していた母親は笑うことを忘れ、他人に対して冷酷になる。同じく息子を失った悲しみに暮れ、性格が変わってしまった妻との関係に悩む夫。母がもういない兄ばかりを溺愛し、自分は大切にされていないと感じ反抗的になる娘。

いくら悲しんでも、加害者とその家族を恨んでも、自分を責めても、失った息子は戻ってこない。その傷は癒えない。

●加害者の家族

世間から冷たい目で見られ責められ、普通に生きていくことが難しくなった両親と妹。両親は営んでいた食堂をたたんで引越し、父は酒に溺れ、母は顔をマスクで隠して家計のために海辺でひっそり屋台を出す。妹は大学を中退、両親は妹を改名させ、本当の身元を隠して生きるように言う。

息子が殺人犯になってしまった理由が分からず、自責の念に駆られ続ける家族。いくら謝罪しても、被害者は戻ってこない。どうやって償えばいいのか。自分たちも世間の目にさらされ、普通に生活することができない。

●加害者の弁護士家族

弁護士の王赦(ワン・シャー、吳慷仁)は、李暁明ら加害者を弁護することに意義を感じていた。「なぜあんな人を弁護するのか」と、世間から激しい非難を浴びてもだ。彼らがしたことを擁護するつもりはない。死刑になって当然だ。しかし、どうして彼らが罪を犯してしまったのかを明らかにしないといけないと思っている。再発を防ぐためにも。

王赦には愛する妻と幼稚園に通う娘がいる。仕事にやりがいを感じていた王赦だが、殺人犯を弁護することで世間から非難を浴び、その誹謗中傷の矛先が大事な妻と娘にも向けられるようになり、自分の弁護方針について悩み始める。

●精神病を患った人とその家族

大芝の大家で同居人、李大芝が唯一慕うことのできる姉のような存在の應思悦(イン・スーユエ、曾沛慈)。思悦には、弟の應思聡(イン・スーツォン、林哲熹)がいる。思聡は若く才能あふれる映画監督として外国でも受賞歴があるが、恋人の死と仕事のストレスで心を病み、統合失調症を患う。思悦は弟を助けようとするが、精神を病んだ弟に向けられる冷たい目や、思聡の変わり果てた姿、治療の難しさに苦悩する。

↑應思悦と應思聡。(第8話)

 

それぞれの立場の人たちの苦悩を、感情を、どこかに肩入れするわけでもなく、美化することもなく、非常に客観的に、丁寧に描いているドラマだと感じました。

当事者ではない限りなかなか見えづらい、それぞれの立場の人の心の闇。しかし、失った人は戻らないけれど、前に進む光はいつか見えてくる。そんなわずかな希望が持てる終わり方も良かったと思います。

 

そして、息子を失った宋喬安は、ニュースを扱う報道局の責任ある立場。ドラマでは、メディアが社会に与える影響についても迫っています。

加害者家族を執拗に追い回す記者たち。真実を客観的に伝えるのではない、白黒を誘導するかのような偏向報道はなくならず、その報道によってまた傷付き、被害者が生まれる。宋喬安は、自分が被害者家族である一方で、自分たちの報道によって誰かを傷つけている事実とも葛藤が生まれていきます。

後半の宋喬安のセリフで、印象的なフレーズがありました。宋喬安の古くからの同僚である、廖氏との会話。

以前は熱心にスクープを探したわよね 新聞や雑誌に勝つためだった

今は新聞雑誌からコピペして、一日のニュース量を満たすだけ

報道する時はいつも用心して客観的に扱ってきたわよね 真実を伝えたかった たとえ1分半のニュースでも真剣だった

これが記者が持つべき精神よ

「新聞雑誌からコピペして、一日のニュース量を満たすだけ」

これ、日本のメディアにも大いに当てはまりますよね…。

日本のメディア、特に報道で信頼できるものって、ほとんどないと私は思っています。客観的な真実を伝えずに、専門家ですらない声の大きいばかりのコメンテーターの極めて偏った意見ばかりを持ち上げ垂れ流している番組にも、ウンザリします。

もちろん、このドラマが扱っている社会への問題提起は、台湾だけでなく、日本やその他多くの国で似たような問題を抱えているように思えます。このドラマを観て、「似ているなぁ、日本にも当てはまる」と痛切に感じました。

メディアに携わる人だけではなくて、それを見る私たちも、観る価値のあるドラマだと思います。

 

「悪との距離」って、何だろう。善悪の区別はどこにあるのだろう。

考えさせられる、良質なドラマと出会えたことに感謝です。Amazonプライムが観られる人はぜひ。

 

そうそう、私はAmazonプライムで日本語字幕で観ましたが、日本語字幕だとやっぱり物足りないんですよね…。中国語のまま観たかったな。

中国語のセリフがそのまま聞き取れるのって、なんだか得した気分です(笑)。大陸との発音や話し方の微妙な違いを味わうのも個人的には楽しいです。もっと台湾の人の話し方にも親しみたいな。

 

林宥嘉(Yoga Lin)の歌う主題歌も印象的でしたよ。

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