中国・深圳の大芬油画村でゴッホの複製画を描き続けてきた男。映画『世界で一番ゴッホを描いた男』
映画鑑賞記録。世界中の複製画が作られるという中国・深圳の大芬油画村で、20年以上ゴッホの複製画を描き続けてきた男性が主人公のドキュメンタリー映画『世界で一番ゴッホを描いた男』をAmazonプライムで観ました。
ずっと観たいと思っていたので、いつの間にかAmazonでプライム対象になっていてラッキーです。
深圳には数回行ったことがあるだけで、この大芬油画村には行ったことがなく、一度行ってみたいんですよね~。行ったことがない場所だけれど、中国の街の様子がやたら懐かしく感じたのもあるし、なかなか面白く鑑賞しました。
『世界で一番ゴッホを描いた男』(2016年オランダ・中国)
原題:《中国梵高》China's Van Goghs
監督:余海波(ユー・ハイボー)、余天琦(ユー・ティエンチー)
出演:趙小勇(ヂャオ・シャオヨン)ほか
Amazon.co.jp: 世界で一番ゴッホを描いた男(字幕版)を観る | Prime Video
予告編↓
中国語タイトルは『中国梵高』。「梵高」の読みはFàn Gāo、そう、中国語でゴッホのことです。
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中国・深圳の大芬油画村。ここは、世界最大の“油絵村”であり、世界の6割以上の複製画がここで制作されているという。
狭い路地に工房を構え、画工たちはそこで生活しながら複製画を描き続けている。画工の一人、趙小勇(ヂャオ・シャオヨン)は、20年以上もゴッホの複製画を描き続けてきた。彼の工房で制作したゴッホの複製画は、オランダの得意先などが買ってくれる。
独学で油絵を学び、ゴッホを尊敬し、ひたすらゴッホを描き続けてきた彼。いつか本物のゴッホの絵を見たい、という想いが募る。
反対する妻を説得し、パスポートも取得し、いよいよ憧れのオランダ・アムステルダムへ。そこで趙小勇が見たものとは…。
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上述の通り、私は大芬の油画村には行ったことがないけれど、映像で見るととても面白い場所です。狭い路地に構えた小さな工房で、数人の画工たちが汗をかきながらひたすら油絵を描いていく。その様子は、画家が自分のペースでゆったりと時間をかけて納得の一枚を作り上げる…なんてものでは決してなく、まるで工場の流れ作業のように、ただ黙々と手を動かし、機械的に複製画を量産していくのです。
世界中の画廊やホテルやお土産屋さんなどで売られている、名画のポスターなどは、こうやって作られているのか…と、結構、度肝を抜かれました👀
主人公の趙小勇は、深圳の生まれではなく、田舎からの出稼ぎ労働者。実家は非常に貧しく、中学を中退していました。
趙は、同じく工房で働く妻と、2人の子供がいます。子供たちは生まれも育ちも深圳ですが、趙が深圳出身ではなく出稼ぎのため都市戸籍ではありません。高校生の娘は田舎に預けられ、田舎の高校に通っています。しかし、周りの方言が分からない、授業が理解できない…と辛い思いをしている様子。
そんな中国社会の問題も、ところどころ垣間見えます。
(以下、ネタバレを含みます)
ゴッホを崇拝し、いつか本物のゴッホの絵を見たい。そんな思いを募らせ、ようやく実現したオランダ・アムステルダムへの旅。
そこで長年の取引先である、現地の商売相手に会います。
趙が目の当たりにしたのは、観光客向けのお土産屋さんで売られているゴッホのポスター。それは、自分が描いたものでした。しかも、卸値の8倍もの価格で売られていました。
自分の複製画は画廊に飾られていると思っていた趙は、ショックを受けます。
そして、ゴッホ美術館で、待ちに待った本物のゴッホの絵との対面。
まじまじとゴッホの絵を見つめる趙小勇。本物のゴッホの絵の素晴らしさに圧倒され、打ちのめされます。「色が全然違う」とつぶやく趙。自分は20年以上もゴッホの絵を描いてきて、それを誇りに思ってもいる。しかし、本物は比べようがないほど素晴らしいものでした。
このシーンは、静かだけれどすごく見ごたえがあったな。とても印象に残っています。
それから、趙小勇自身が自分に問いかける、自分は芸術家か、職人かという問い。長年油絵を描いてきたのに、オリジナル作品が一つもないんだ、と、どこか悲しげな笑みを浮かべ語る彼。ゴッホの複製画を描く自分の仕事を誇りに思ってきた一方、このままでいいのか、という迷いも生じていたのかもしれません。
全然違うけれど、芸術家とは、オリジナルと模倣品の価値とは…などについて、以前観たドキュメンタリー映画『美術館を手玉にとった男』を思い出しました。
この映画は2016年の作品ですが、今の大芬油画村はどうなっているのでしょうか。趙さんは今も忙しく、ゴッホを描き続けているのかな。それとも、オリジナルの作品制作に取り掛かっているのでしょうか。
いつか大芬油画村を訪ねてみたい、という思いが強くなりました☺