【読書記録】『ジャスミンの残り香ー「アラブの春」が変えたもの』を読んで、エジプトのロックバンドCairokeeを知る
久しぶりの読書記録。
偶然目に留まったこの本を読んでみました。アラブ、中東情勢は不勉強で分からないことだらけ、著者のお名前も全く存じ上げていませんでしたが、吸い込まれるように夢中で読んでしまいました。
『ジャスミンの残り香ー「アラブの春」が変えたもの』田原牧著 集英社(2014年発行)
中東問題、アラブ世界の話は複雑で難しいです。私の知識不足で、この本を一通り読んでみても、分からないことだらけ。
そんな私でも、ページをめくる手が止まらないほど面白く読めたのは、やはり著者の力量なのだと思います。
著者の田原さんは、中日新聞社の特派員としてカイロ支局に勤務し、カイロでアラビア語留学をされた経験のある方。約30年にわたりアラブ世界を見続けてきているアラブ通です。
この本は決して、「アラブを知る解説書」のような教科書的な内容ではなくて、著者の主にエジプトとシリアを中心とした現地での体験を基に執筆されており、ルポタージュのようで臨場感があります。
アラブの春の実態とは何だったのか。革命は徒労だったのか?
私はアラブ諸国には行ったことがありませんが、活字を読んでいて、現地の光景が目に浮かぶようでした。青年たちが集う広場、タクシー運転手との会話、お店のフレンドリーな主人との何気ない会話、 目の前を流れるナイル川…。一般市民の側から、革命はどう見えていて、どんな思いでどのように関わって参加して、革命を振り返ってどう思っているのか。日本にいてはなかなかメディアが報じない、現地の人々の声は貴重です。
訪れたことのないエジプトの空気や人の温かさが活字を通して伝わってきて、ワクワクする場面もありました。
また、主に第二章「ジャスミンと紫陽花」では、日本の「紫陽花革命」を引き合いに出しながらアラブの春と比較もしています。2012年、反原発を訴えて首相官邸前に10万人以上(主催者発表では20万人)が集まりデモをした、紫陽花革命。
アラブの春と日本のデモを比較することには多少唐突というか、違和感も感じたものの、新聞記者である著者ならではの分析は勉強になります。
中東情勢やアラブ世界に詳しくなくても、「もっと知りたい」と思わせてくれる、パワーを感じる一冊でした。
もっと世界のことを知りたいし、目を向けなければ。
さて、この本を読んで、ちょっと本筋からそれるかもしれませんが、面白い出会いというか収穫がありました。
この本の中で紹介されていた、エジプトの「社会派ロックバンド」カイロキー(Cairokee)に興味を持ちました。
このバンドは二〇一一年年のムバラク打倒闘争と並行して、闘争を担った人々を鼓舞した『スウト・エルホッリーヤ(自由の声)』という曲で一躍、社会派ロックバンドとして注目を集めた。
(本書より)
エジプトのバンドなんて全く知らなくてイメージもなかったのですが、興味をそそられて、本書で紹介されている曲のMVをYouTubeで探してみたらありました。というか、カイロキーのオフィシャルチャンネルがあります。以下の3曲は本書で紹介されています。曲名の日本語は本書より。
聴いてみたら、私アラビア語は全く分からないのに、なんだかとても刺さる。印象に残る曲たちです。
『ナース・ビトラアス・ワ・ナース・ビトゥムウト(人びとは踊り、人びとは死んでいく)』(英語字幕あり)
『イスバト・マカーナック(君の場にとどまれ)』
『ヤー・エル=ミダーン(広場よ)』(英語字幕あり)
アラビア語が分からないのが悔しいです。世界にはまだまだ、知らないミュージシャン、知らない音楽がたくさんあります。
カイロキーというバンドを知れたことは、この本の思わぬ副産物となりました。嬉しい収穫だなぁ。